1. はじめに
ここでは部屋干しする際に乾燥機や除湿器を使わずに扇風機と自作した乾燥スタンドで
経済的かつ速く乾く方法を調査しています。
自作した乾燥スタンドを使って扇風機で洗濯物を回転させながら速く乾かす乾燥方法です。
乾燥スタンドの使い方や作り方はこちらで紹介しています。
サンルームで検討した経験をもとに、部屋干しでもあっという間に乾かせる回転式乾燥スタンドを自作DIYしました。扇風機の風を当てると洗濯物がくるくる回転して万遍なく均一に乾かすことができます。蒸発した水蒸気も効率よく排出し、扇風機だけで乾くので電気代も10円程度で済みますよ。
夜間や雨天に関わらず部屋干しで乾燥時間を3時間以内にしたいと考えていますが、
綿100%のズボンだけが乾きません。
経験的に綿素材は乾きにくく、ポリエステルはすぐに乾くイメージがあるかと思います。
そこで何故、綿100%のズボンが乾きにくいのか素材や衣類種類を変えて調査してみました。
2. 綿とポリエステルの違い
一般的に衣類の繊維素材には綿とポリエステルがよく使用されています。
そこで綿とポリエステルの特徴について解りやすく比較してみましょう。
2.1 綿の特徴
出典 : bodhisattva.sblo.jp
綿は自然の植物素材で綿の木からとれるコットンを材料としてます。
繊維径が均一でなくばらばらになっており、大体0.01~0.02mmと言われています。
自然な撚りが入っていて糸どうしがしっかりと絡み合って高い強度が出ます。
また繊維中心付近が中空になっており、ここが空気層となって保温性があります。
またここに水分を含むことができるため、繊維自体に吸水性があります。
(綿素材の特徴)
・肌触りがよい
・吸水性が高い
・縮みやすい
・速乾性に劣る
2.2 ポリエステルの特徴
出典: TORAY
ポリエステルは石油からできる合成化学繊維で人工的に作られます。
基本的には繊維中心は詰まっていますが、中空構造にもできます。
繊維径も使用に応じて太さを調整できます。
綿と違って素材自体に吸水性はなく、繊維形状で吸水しています。
ただし綿と組み合わせることで吸水性を改善することができます。
(ポリエステルの特徴)
・強度が高く耐久性に優れる
・吸水性は高くない
・速乾性に優れる
・耐候性に優れる
3. 乾燥時間の調査内容
同じTシャツでもポリエステルと綿では綿素材の方が乾きにくいですよね。
またTシャツとズボンではズボンの方が乾きにくい。
そこで衣類の素材や種類によって、乾燥時間がどのように変化するか
部屋干ししながら調査しました。
部屋干し方法はDIYした乾燥スタンドを使い、扇風機の風で洗濯物を回転させる
オリジナルな部屋干し方法です。
30分おきに洗濯物重量を測定して、その重さから乾燥具合を評価しています。
(衣類条件)
・綿100% Tシャツ、長袖シャツ
・綿100% 厚手ズボン
・綿65%ポリ35% ズボン
・ポリエステル100% シャツ
(乾燥条件)
・部屋干し
・乾燥スタンド使用(扇風機2台)
・回転数 10rpm(洗濯物が1分間に10回転します)
・温度 26℃、 湿度 70%
・日中 曇り時々晴れ
4. テスト結果
脱水直後の重量を乾燥率0%として、重量の減量分を乾燥した量と考え乾燥率を計算。
30分おきにそれぞれ重量を測定することで乾燥速度を評価しました。
部屋干しにも関わらず扇風機だけで圧倒的に速く乾いています。
素材や衣類種類に関係なく、どの洗濯物も2時間で乾いています。
この結果から面白いことが分かります。
まず衣類の含水率(完全乾燥率)を見ると綿とポリエステルでは大きく異なっています。
綿はシャツ、ズボンとも30%程度水分を含んでいますが、
ポリエステルは衣類の種類に関係なく20%程度と1.5倍の差があります。
これは綿繊維の中空構造が影響しておりその中に水分を含むからだと思われます。
次に乾燥速度を見てみると、素材の種類よりも衣類形状に共通点が見られます。
つまりシャツは素材に関わらず乾燥速度が速くズボンは遅くなっています。
乾燥速度は温度や湿度の影響も受けることから蒸発要因に支配されています。
つまり衣類形状は蒸発要因の中の蒸発表面積に影響を与えていると思われます。
蒸発表面積とは衣類そのものの表面積ではなく大気に接した蒸発が起こる表面積です。
シャツは薄く平らな形状で水蒸気が蒸発する表面積が大きいのに対し、
ズボンは形状が複雑でポケットもあるためシャツに比べて蒸発表面積が小さくなっています。
5. 蒸発表面積の影響
衣類形状により蒸発表面積が変化して乾燥速度が異なることが判りました。
もし同じシャツでも蒸発表面積を大きくすればより速く乾くことが予想されます。
そこでシャツの中に針金を入れて膨らませた状態で乾燥させてみました。
(立体ハンガー)
乾燥スタンドでは衣類自体が回転して扇風機の風が定期的に当たるため
シャツの中まで風が通ることが期待できます。
そうすれば衣類内側からも蒸発が起きて蒸発表面積が大きくできるはずです。
その結果、シャツを膨らませることで乾燥速度が速くなることが確認できました。
立体ハンガーによりシャツ内部も蒸発表面積に含めることで30%ほど速く乾きました。
ここからも衣類の乾燥速度において蒸発表面積が大きな影響を持つと考えられます。
6. 脱水直後の含水率を減らせるか?
衣類の含水率は素材繊維に支配されています。
仮に綿素材であっても脱水直後の含水率をポリエステルと同じにすることで
乾燥時間が等しくなるはずです。
そこで脱水回数を増やすことで脱水直後の含水率を下げることができるか調査しました。
家の洗濯機は日立製BEAT WASHで標準の脱水時間は7分です。
そこで脱水だけを繰り返すことで衣類重量がどのように変化するか重量を測定しました。
衣類は全て綿100%のTシャツ、厚手ズボン、厚手パーカーです。
その結果、Tシャツは脱水回数を増やしても全く重量が変化せず、
他の厚手衣類については重量[g]が徐々に低下しています。
厚手衣類は繊維数や撚りが多いためその隙間にある細かな水滴が遠心力で
徐々に放出されていると考えられます。
しかしながら4回脱水しても5%ほどしか減っていないのであまり効果はありません。
薄手のTシャツは全く重量が低下していません。
綿素材は繊維が中空構造でそこに水分を含むと考えられますが、
そのような水分は脱水機では取り除けないかもしれません。
7. さいごに
乾燥スタンドを使って素材違い衣類を乾燥させそのときの重量を測定してきました。
その結果、次のことがわかりました。
① 脱水後の含水率は衣類素材に支配される
② 脱水時間が長くても含水率は改善しない
③ 乾燥速度は衣類形状に依存する
ここで最初の疑問、
「綿100%ズボンが乾きにくい?」
に対する答えは、
「綿素材であるため含水率が高くかつズボン形状は乾燥速度が
遅いため乾燥時間が長くなる」
ということがわかりました。
また同じシャツでも立体ハンガーを使ってシャツ内部からも蒸発を促進すれば
乾燥速度が速くなることも確認できました。
しかしこの結果より綿100%ズボンを部屋干しで3時間以内で乾かすという目標は
かなり難しいと想像できます。
含水率を大きく下げることはできないので乾燥速度を上げるしか方法はありません。
ズボンにも立体ハンガーを使ってみましたが、改善はみられるもののそれでも足りません。
残された方法は湿度を下げて飽差を大きくする、乾燥スタンドの回転数を増やして
境膜を薄くする、などが考えられます。
参考までに温度や湿度、風が洗濯物に与える影響はこちらで説明しています。
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これまで部屋干しにおける乾燥速度(重量)を数多く測定しました。そこで得られたデータをまとめて考察したところ、面白い法則が見られます。ここでは部屋干しにおける温度や湿度の影響を数学的視点から考察、比較しました。他では見ることができない実測データを使った分析結果です。
結果だけ見ると一般的な事ですが、実際に数字で比較すると具体的に理解できます。
しかし今後も更なる改善が必要そうです。