1. はじめに
フレームDIYラボではアルミフレームやアルミパイプを使ったDIYを紹介していますが、
興味がある人と一緒に「LINK YOUR DESIGN」という共同DIYも行なっています。
これは実際にアルミフレームやパイプを使ったDIYを一緒に協力しながら行う活動です。
アルミフレームやアルミパイプはとても便利な材料で木材にはない優れた特性がありますが、
普段身近にないため使い方がわからないという欠点があります。
そこでアルミフレームやアルミパイプの使い方や選定、設計などをアドバイスしながら
初めての人でも安心してDIYできるようにするものです。
これまで行なってきた共同DIYの様子はこちらから見る事ができます。
アルミパイプやアルミフレームを使ってみたいという方と一緒に共同DIYを行っています。これらの材料はとても便利ですが入手性の悪さからあまり知られていません。そのため部品選定や使い方、加工、組立方法など初めての人はわかりにくいです。そこで共同DIYでは誰もが扱えるようにサポートしています。
今回の共同DIYは神奈川県に住むKさんで子供向け歩行補助器具を作りたいという内容です。
話を伺うと大変お困りの状況で甥っ子さんを助けたいという気持ちが伝わってきました。
私は介護やリハビリ器具という分野については全くの無知でしたが、
このような器具はなかなか手に入らない物ということを知りました。
私も2人の子供がおり、助けたい、少しでも良くしてあげたい気持ちはよくわかります。
そんな思いで一緒に作った子供の歩行補助器具です。
2. Kさんの相談内容
こちらはKさんからいただいた相談内容の一部です。
障害のある甥っ子の為に、トレーニング用の器具を製作したいと思い、
昨晩CADソフトをダウンロードして、少しだけですが操作してみましたが、
なかなか困難でした。。。
まずは、ご相談可能かどうかをお伺いしたくメールいたしました。
話を詳しく聞いてみると、甥っ子さんは満1歳の時に高熱を患い、脳神経を損傷して
障害を持ったそうです。
さらにてんかんも引き起こしたため手術を行い、ようやくリハビリができる状態になり
まずはハイハイを訓練する補助器具を作りたいという話でした。
この内容を聞いた時、ご両親の心境や不安は私では計り知れないものだろうと思いました。
あとがきでも触れますが、私にとってもてんかんという病気は因縁があります。
どこまでお手伝いできるかわかりませんが、できるところまでは頑張ろうと思いました。
共同DIYするものは子供がハイハイできるように上から吊り下げて、
かつ自由に動き回れる補助器具です。
子供自身が手や足の力だけで体重を支えることができないので、
極力負担にならないようにします。
それと同時に自身の意思で手足を動かして自由に動けるようにするため、
高さ調整ができるようにします。
身体が不自由なため事故に繋がらないように強度や安全面に配慮した器具を考えます。
3.ツ 歩行補助器具の構想
Kさんは相談される前に色々調べられており、作りたい器具の構想が出来上がっていました。
キャスターが付いた枠組みに布製歩行補助ベルトを取り付けてそこに子供も載せるものです。
この補助器具への要求事項は次の通りです。
(歩行補助器具への要求事項)
・ 子供の成長に合わせて高さ調整ができる
・ 子供の体重をしっかり支えられる
・ 角を無くし怪我しないようにする
・ 収納しやすいようにする
Kさんと二人で色々相談しながら構想図を考えていきます。
初めはアルミフレームで箱型の構造を考えていましたが、
最終的にはアルミパイプを使って調整しやすい構造となりました。
歩行する方向にはなるべく部品を付けずに邪魔にならないようにします。
アルミパイプには角度が自由に調整できる部品がそろっているので最適です。
この歩行補助器具にこちらの市販器具が取り付けて、子供を吊るして浮かせます。
この器具をアルミパイプで作った歩行器具に取り付ける構想です。
この構想を元に具体的に設計していきます。
4. 歩行補助器具の設計
4.1 歩行補助器具の材料
使用する材料は直径28mmのアルミパイプです。
普段ほとんど見ることのない材料ですが、会社や工場などでは一般的によく使われています。
家庭DIYで利用する金属パイプにイレクターパイプがあります。アルミパイプも同様な用途で利用できますが、イレクターパイプよりも優れた特徴がいくつもあります。ここではイレクターパイプとの比較やアルミパイプの種類について、詳しく紹介しています。
アルミパイプは軽くて強度があり、鉄と違って錆びないのでDIYに適した材料です。
またパイプどうしはコネクタと呼ばれる部品で連結しますが、ラインナップが豊富です。
例えば角度を調整したり位置をずらしたり回転させるなど自由な組み立てが可能です。
この歩行補助器具のように角度調整が必要な場合でもアルミパイプを使えば簡単です。
アルミパイプどうしを連結する部品がコネクタです。コネクタにはたくさんの種類があり、連結方向も直角、水平、クロスなど様々な用途に利用できるようになっています。またパイプに沿って動いたり、パイプを軸に回転したりという可動できるコネクタもあります。これを利用すればDIYの幅が広がりますよ。
またアルミパイプはアクセサリと呼ばれる付属部品も豊富で、
例えばパイプ端部で怪我しないような樹脂製キャップやキャスターなども用意されています。
これらを組み合わせて作ることにしました。
4.2 歩行補助器具の設計
次にKさんと一緒に考えた構想図を元に設計をしていきます。
アルミパイプの設計は専用の3D CADを使って行うことができます。
これがあることで遠く離れたKさんと一緒にDIYすることが可能となります。
色んな角度から設計モデルを見ることでお互いのイメージを合わせていきます。
アルミフレームやアルミパイプには専用の3D CADが無料で提供されています。そのためこれを使えば作る前に色んな角度から見ることが可能となり、設計ミスが少なくなります。さらに部品の長さや種類、数なども自動で計算してくれるので部品手配ミスや加工ミスも低減することができます。
こちらが実際に設計した歩行補助器具です。
構想通りに2本の折り曲げたパイプをクロスさせるような構造です。
ただ交差させるだけだと不安定なので回転するコネクタを使って交差部分を固定しています。
このCADソフトは全ての部品に対応しておらず、
キャスターや回転コネクタなど一部の部品は図面に入っていません。
また足となるパイプがずれているのもソフト上の問題で実際にはそろっています。
また交差した上のパイプは半円状のパイプを使って、
ここにボルトを立てることで市販の布製歩行器具を吊り下げられるようにしました。
交差したパイプの足にも半円状のパイプを2本並べて使っています。
半円状パイプには溝があり専用ナットを入れることでボルトが使えるようになります。
最後にキャスターの取付ですが、半円状パイプにそのまま取付けできる部品がありません。
そこでKさんと相談して半円状パイプとキャスターの間にアルミ板を入れて固定します。
アルミ板にはタップ加工を行いキャスターとパイプをそれぞれボルトで固定します。
アルミ板の加工は難しそうみえますが、ドリルとタップドリル、電動ドライバーがあれば
誰でも簡単に加工できます。
私の方で加工図面を作成してそれを元にKさんが加工、組み立てを行います。
共同DIYではお互いの得意なこと、出来ることを共有し合うことで
一人では難しいDIYでも完成させることができます。
4.3 歩行補助器具の製作
設計が終わるとCAD図を元に部品リストを作成します。
このCADソフトはパイプの長さやコネクタの型式、数量まで自動で出力してくれます。
そのため部品欠損や間違いを減らしてくれます。
Kさんに依頼されたのでメーカに手配を行い、直接Kさんの自宅まで発送します。
手配から発送まで納期は約2週間です。
その間に私の方で歩行補助器具の組図やアルミ板の加工図面を作成します。
Kさんはアルミパイプを初めて見るためどの部品をどこに使うかわかりやすく説明します。
Kさんとの具体的なやり取りはこちらのページで見ることができます。
アルミパイプの組み立ては六角レンチでボルトを締めるだけの簡単な作業です。
もし間違っても何度も繰り返し組み立て直すことができるため初めてでも安心です。
アルミフレームやアルミパイプの組立ては六角ボルトを締めこむだけの簡単作業です。六角レンチ1本あれば全てを組み立てることができます。ウチの小学2年生の子供でもこの通り。誰が作っても同じように組みあがるので技術が要らず、初めての方やDIYしない人も安心して利用できます。
組み立ての他にキャスターを半円状パイプに取り付けるためのアルミ板加工も行います。
アルミは柔らかい材料で加工性に優れるため初めての人でも簡単です。
以前、初めての人と一緒にアルミパイプにタップ加工した事例もあります。
こちらには動画で加工方法を紹介しています。
アルミ板加工が終わりパイプと連結すると最後は市販の歩行器具を取り付けます。
こちらは布製で上のパイプに引っ掛けて吊します。
この器具については私は見ることができないのでKさんにお任せとなりました。
5. 歩行補助器具の完成
共同DIYでは相談者の方から完成の連絡があるまではいつもソワソワします。
自分で直接手を出せない遠く離れた方との共作のためここは待つしかありません。
そしてついにKさんから完成したとの連絡がありました。
こちらが実際に完成した歩行補助器具です。
甥っ子さんはいつもチャイルドシートに寝ている状態らしく、
この補助器具を使うことで視線が変わり喜んでくれたみたいです。
手足をバタバタさせて自分の意思で動こうとする様子を見せてくれているようです。
これまで多くの報告をいただいてきましたが、今回ほど嬉しいことらありませんね。
彼と直接会ったり話したりすることはないと思いますが、
それでも彼の成長の助けになれたかもしれないと思うと良い物が作れたと感じます。
この歩行補助器具ですが、加工や組み立てに約2日かかったとのことでした。
いくつか修正点もあり、こちらがKさんからいただいた所感です。
(Kさんの感想)
・高さ調整をしながらの組み立てが難しかったです。
・鉄・アルミのDIYは初めてでしたので、アルミプレート穴あけの位置決めが、
なかなか正確にいかなかったですね。
ただボルトはズレによって多少ねじ込みがきつい穴もありましたが全て取り付ける
事ができたし、初めてタップを使ったにしては上出来と思ってます。
・補強案を考えていましたが、実際の強度的には大丈夫と思いました。
・キャスターですが、実物を見ると少し大きすぎるのと重量が重めだったので、
小振りのゴム製で球状のキャスターをホームセンターで購入し変更しました。
・キャスターと下側パイプの下に隙間があり、ここに足を挟んでしまったので
100均の発泡スチロールで保護しました。
共同DIYはCADや頭の中で構造を考えるため、
微妙なイメージのズレや想定しない事が起こるケースもあります。
そのような時には互いに協力し合って解決し、その経験を設計にフィードバックしています。
このあたりは私の経験値を上げていくしかありませんが、
それでもこの世にない物を一緒に作れた事に感謝と誇りを感じます。
6. さいごに
子供用歩行補助器具の共同DIYは如何だったでしょうか?
これまでは相談者の趣味や興味があるDIYでしたが、
今回のように子供用リハビリ器具は初めてでした。
DIYが人々の生活や困っている事の役に立つものだと感じることができました。
そしてアルミパイプやフレームなどを駆使すれば、これまで出来なかったDIYが
誰でも実現できるということを改めて思いました。
Kさんから聞いた話ですが、リハビリ器具を手に入れることは意外に難しいようです。
もっと困っている人達のために補助やレンタル制度などがあってもいいと思いますね。
ネット検索したり、医療器具メーカに問い合わせしたり、いろいろ情報収集しましたが、
子供用のリハビリ器具は本当に少なく、数十万とかの高額な価格設定の世界であり、
また国の認可が無い製品だと補助もでません。
全国には、甥っ子と同様なお子さんをお持ちのご家庭も多く存在すると思われ、
たいへん苦労しているようです。
そんな中、多大なるご協力をいただきまして、本当にありがとうございました。
これからも彼がこの先、無事に成長していくことを心からお祈りしています。
(あとがき)
ここから個人的な話ですが、私には6歳離れた弟がいます。
彼は中学校3年くらいからてんかんを発病するようになり、
不幸にも17歳のときにそれが原因で他界しました。
当時、私は既に家を出ていたため彼が引きつけを起こす様子を見たことがありませんが、
それを目の当たりにした両親は驚きとても不安に感じていました。
久しぶりにこの病名を聞いた時、昔の悲しい記憶がよみがえりました。
てんかんは成人するとその症状はなくなると言われています。
私のいとこも軽いてんかんを患っていましたが、今では全く症状はでません。
そのため、この子には無事に生き抜いて欲しいと心から思います。
アルミフレームやパイプを使ったDIYを一緒にしてみませんか?
DIYする時間や工具がない
普段DIYをしないので自信がない
そんな方にも安心で手間がかからず欲しい物が手に入る共同DIYです。
一人で考えるよりも複数人で考えた方がよりいいアイデアも生まれます。
まず設計や構想は御自分で考えて欲しいものをイメージしてください。
もし自分で加工から組み立てまでされる方は必要に応じてアドバイスを致しますし、
手間な部品手配や加工をしたくない方はこちらで実施して組み立てる状態の部品を
お送りすることもできます。
初めて使う材料で不安な方も安心してチャレンジすることができますよ。
気に入った物が見つからない場合は試してみては如何でしょうか?
サポートやアドバイスは無料で実施しているためできる事、できない事があります。
詳しいサポート内容や進め方はこちらで説明しています。
またこれまでのサポート事例はこちら。
「サポート事例集」
これまでの共同DIYの事例です。
木材で作れなかった様々な物が自分で作れるようになりますよ。
トヨタ製コースターの車中に2段ベッドを共同DIYしました。大人が寝るベッドなのでベッド自体の強度と車中での固定強度が必要となります。更に通路を遮るようにベッドを設置するため、通行できるような仕組みも必要です。そこでアルミフレームを使って強度があって通行可能なベッドを作っています。
屋上の縁に雪が積もらないように逆勾配のポリカ屋根を共同DIYしました。幅が10mもある長い屋根で、先端を90度曲げで屋根の下にも雪が入らないように考えました。アルミフレームで枠組みを作って、そこにポリカ板を設置します。ポリカ板を取り付けるにはアルミフレームが使いやすくて最適です。
ホールを仕切る幅4mもある舞台幕を共同DIYしました。このDIYの特徴は①釘や固定金具を一切使わず、壁や床、天井を傷付けない、②幅4mもある重たい舞台幕をたわむことなく掛けて開閉できることです。一見、難しそうに見えるこのDIYですが、アルミパイプを使えばあっという間に解決です。
社団法人イノプレックス様と共同で室内栽培用ラックを製作しました。安全面に考慮していくつかの構造モデルを考えて強度計算を実施。見合ったコストでしっかりしたラックを製作することができました。アルミフレームは木材と違って製作する前に強度を計算できるため失敗が少なく大変便利です。
アルミフレームを使ってキャンターの荷台にトノカバーを共同DIYしました。カバー材にはアルミ縞板を使い、その枠組みをアルミフレームで作ります。カバーは左右に羽のように開き、ダンパーを使って開けた状態で保持できるようにしました。こんなカッコいいカバーをDIYで作れるから驚きです。
カーポートと既設屋根の間に隙間があり、雨で濡れてしまいます。そこでアルミパイプを使って屋根を新たに追加することになりました。しかしカーポートと既設屋根は高さが異なるため斜めになってしまいます。このような場所でもアルミパイプであれば簡単に作ることができます。
アルミパイプを使って天井から吊るすホームシアター用のスクリーンを共同DIYしました。元々イレクターパイプを使われていましたが、スクリーンの重さに耐えきれず落ちてしまいます。そこで強度が高いアルミパイプで置き換えることでたわみを大きく改善したロールスクリーンが完成しました。
大阪在住のMさんからキャンターで車中泊できるフラットベッドを製作したいとの相談がありました。そこでアルミパイプとパーティクルボードで折りたたみ式のベッドを共同DIYしました。Mさんに車内寸法を計測してもらい私がベッドを設計します。途中、パイプが長すぎる問題が発生しましたが、パイプの加工方法をお知らせすることで解決して無事にベッドが完成です。
仙台市在住のKさんから「LINK YOUR DESIGN」よりお問い合わせいただいた軽トラのトノカバーをアルミフレームを使って共同DIYしました。Kさんにカバーの取付方法や寸法の確認をお願いし、私が設計、部品選定を行うことで希望されるトノカバーが完成!一人で作るよりも良いものができますよ。