ここではアルミパイプを使って扇風機の風力で
洗濯物を回転させて乾燥させるスタンドを
自作して、その評価を行っています。
普通に部屋干しするよりも数倍速く乾燥する
ことが出来ます。
製作過程から動作方法、様々な評価や改良など
シリーズになっています。
これまでの記事はこちらからどうぞ。
(関連記事)
乾燥スタンドの製作過程です。
1時間くらいで造れます。
乾燥スタンドの動作の様子です。
天気干しや普通の部屋干しと乾燥速度を
比較した実験結果です。
乾燥スタンドの性能をアップするための
現状調査です。
乾燥スタンドをより速く回転させる
方法を調査した結果です。
6. 雨天時のテスト結果
部屋の湿度が80%以上の環境下で
乾燥スタンドを使った結果です。
7. 乾燥速度の数学的考察
これまでの実験データをまとめて
部屋干しの公式を考えました。
実際の回転の様子はこちらから見れます。
1. はじめに
タイトルから既に堅苦しそうな感じですが、
そんなに難しい話ではないので
興味があればお付き合いをお願いします(笑)
これまで乾燥スタンドを使って洗濯物の重量を
測りながら乾燥時間を計測してきました。
せっかくなので、これらのデータをもう少し
分析して法則性を見てみましょう。
2. 乾燥速度の一般式
洗濯物の乾燥速度は温度や湿度、風速などに
左右され、詳しく解こうとすると境膜の厚みを
計算する必要があります。
しかし見ただけで吐き気がしたので止めます。
その代わりにより単純な次の法則を使ってみます。
もし間違っていたら指摘してください。
蒸発速度Vは飽差ΔPと表面積Aに比例します。
V ∝ ΔP × A
ここで飽差とはある気温における飽和水蒸気圧Psと
実際の水蒸気圧Pの差分です。
ΔP = Ps - P ・・・(1)
飽和水蒸気圧とは湿度100%の時の水蒸気圧です。
これは逆に言うと、この分だけ水蒸気を空気中に
蓄えることができるという意味でもあります。
洗濯物から水分を蒸発させようとしたとき、
周りに水蒸気がない環境ほど蒸発しやすいですよね。
飽差が大きいということは周囲に水蒸気が
少なくまだ蒸発できるということです。
例えば、気温20℃、湿度60%で考えてみます。
この場合の飽和水蒸気圧Psは23.4kPaとなります。
湿度60%なので実際の水蒸気圧Pは、
P = Ps × 0.6 = 14.0kPa
となります。そのため飽差ΔPは、
ΔP = Ps - P = 9.4kPa
となります。
表面積Aは水分が蒸発できる表面積のことです。
例えばタオルを干すときに2つに折って干すよりも
折らずに干した方が速く乾きますよね。
タオルを2つに折ると表面積はタオル片面分だけで
折らずに干した時の半分になるからです。
3. 乾燥速度の実測値
この式で重要なのは飽差です。
これは気温や湿度によって変化するからです。
これまでの測定データをもう一度見てみましょう。
このグラフを見ると時間と共に重量が直線的な
減少しており、この傾きを乾燥速度と考えます。
グラフに近似直線を引いてその傾きを求めると、
天気干し : -4.7 [g/分]
部屋干し : -3.0 [g/分]
部屋干し+乾燥スタンド : -8.0 [g/分]
となりました。
他のデータも同じ方法で乾燥速度を求めて、
それらを表にまとめてみました。
下表には計算した飽差と乾燥スタンドを使った時の
回転数も併記しています。
この表を見ると、乾燥スタンドを使うことで
乾燥速度がだいぶ速くなっています。
10rpm(扇風機1台)だと約2.5倍
14rpm(扇風機2台)だと約5.0倍
4. 乾燥速度と飽差の関係
さらにこの表で0rpmのデータだけ抜き取り、
乾燥速度と飽差の関係を調べます。
すると乾燥速度は飽差と見事に比例しています。
(乾燥速度はマイナスの方が速いので比例)
しかも近似曲線を描くと、ほぼ直線です。
V= -0.45×ΔP+0.25 ・・・(2)
さあ、この乾燥速度と飽差の近似式を使って
面白い計算をしてみましょう。
5. 乾燥速度から見た各機器の特徴
一般的に洗濯物を速く乾かす方法として、
①エアコンを使用する
②加湿器を使用する
がよく挙げられます。
まずはこれらの機器を使うと何故、乾燥速度が
速くなるのでしょうか?
①エアコンの場合
エアコンは風も出るので正確な計算は
非常に困難です。
そこで計算を簡単にするために簡易的な
モデルを考えてみます。
つまりエアコンは室内温度を上昇させ、
風の影響はないものとします。
すると室内の水蒸気量はそのままで室温が
上昇して湿度が低下します。
温度が上昇すると飽和水蒸気圧も上昇するため
飽差が大きくなり、乾燥速度が速くなります。
つまりエアコンのように温度を上げることは
(1)式のPsを大きくする効果があります。
②除湿器の場合
除湿器の場合は室温はそのままで室内の
水蒸気を減らしてくれます。
つまり湿度が下がり、(1)式のPを小さく
する効果があります。
エアコンと除湿器は飽差に与える影響が
全く異なっていました。
では、どちらが効果が高いのでしょうか?
6. シミュレーション
そこで室温15℃、湿度60%の環境下で、
エアコン、除湿器、乾燥スタンドを使った
場合の比較してみましょう。
まず何も使用しない場合の乾燥速度Vは
(2)式より計算すると、
V=-2.9[g/分」
となります。
これに乾燥スタンドを使うと乾燥速度は
約2.5倍速くなり-7.2[g/分]となります。
ここでエアコンや除湿器を使って同じ
-7[g/分]くらいの乾燥速度にする場合、
室内はどのような環境になるでしょうか?
(1)、(2)式を使って計算してみました。
その結果、乾燥スタンドと同じ乾燥速度にするには、
エアコン: 室温を22℃まで上げる
除湿器 : 湿度を5%まで下げる
にする必要があります。
これを見ると、除湿器では実現できそうになく、
エアコンだとそこそこの電気代がかかりそうです。
またこの結果から温度を上げるよりも
風を当てた方が乾燥速度への影響が大きいことも
想像できます。
そのためエアコンの風を直接当てる方法が
最強だと言えるでしょう。
ただ電気代を考えると、圧倒的に乾燥スタンドが
安くなると言えます。
7. まとめ
洗濯物の乾燥速度を重量変化を測定しながら
求めて、飽差と乾燥速度の関係を調べました。
その関係からエアコン、除湿器、乾燥スタンドを
比較したところ、乾燥スタンドが有利であることが
判りました。
ここではタオルに限ったデータなので、
衣類などはまた違った乾燥速度になると思います。
また時間があれば衣類でも測定したいですね。
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サンルーム、テラス屋根、脱衣所の棚など。
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